鎌倉の小道を抜け、我が家のささやかな店「花暮らし」のドアを開けると、ふわりと土と緑の香りがいたします。

こんにちは、店主の桜井慎吾と申します。

かつては銀行員として、数字と向き合う毎日を40年ほど過ごしました。
定年を機に、長年連れ添った妻と共にこの店を開いてから、早いもので5年の月日が流れました。

お客様との会話の中で、時折こんなお声を耳にすることがあります。

「お花屋さんって、なんだか少し気後れしてしまうんです」
「何をどう伝えたらいいか分からなくて、いつもお店の前を通り過ぎてしまうのですよ」

そのお気持ち、私にはとてもよく分かるのです。
新しい世界へ一歩を踏み出す時の、あの何とも言えない緊張感。
私も、初めて花の市場へ足を踏み入れた日のことを、今でも鮮明に覚えておりますから。

でも、どうかご安心ください。
この記事を読み終える頃には、その小さな不安が、花を贈る喜びと自信にきっと変わっているはずです。
今日は、私がお客様とのささやかな対話の中で見つけた、お花屋さんで緊張せずに、あなたの想いを形にするための小さなコツをお話しさせていただきますね。

そういえば、もうすぐ卒業式のシーズンですね。
何を贈ろうかお悩みの方は以下のリンク先から探してみてください。

卒業式・卒園のお祝いに最適な胡蝶蘭・花ギフト|選び方やメッセージ例も紹介

なぜ、お花屋さんを前にすると少し緊張してしまうのでしょう?

長年、こうしてお店に立っておりますと、お客様がどのようなことに戸惑い、不安を感じていらっしゃるのかが、少しずつ見えてくるようになりました。
もしあなたが少し緊張されているのだとしたら、その理由はきっと、この中のどれかに当てはまるのかもしれません。

理由1:値段がはっきりしない不安
まず一番多いのが、「一体いくらくらいかかるのだろう?」という価格に対するご心配です。
お野菜やお魚のように、一つひとつに値札がついているわけではないので、当然の不安ですよね。

理由2:「どう伝えればいいか」という戸惑い
花の名前も知らないし、専門的な言葉なんて分からない。
頭の中にあるぼんやりとしたイメージを、どうやって言葉にすれば良いのか分からず、口ごもってしまう。
そんな経験はございませんか。

理由3:場違いかもしれないという気後れ
色とりどりの花に囲まれたおしゃれな空間に、自分はなんだかふさわしくないような気がしてしまう。
そんなふうに、少し遠慮がちな気持ちになってしまう方もいらっしゃいます。

ですが、どうぞご安心ください。
私たち花屋は、そんなあなたの「どうしよう」というお気持ちごと、温かくお迎えしたいと心から思っております。
大切なのは、お花の知識ではありません
あなたが誰かを想う、そのお気持ちだけなのですから。

たった3つだけ!これさえ押さえれば大丈夫、花束注文の基本ステップ

銀行員時代、私は複雑な手続きも順序立ててご説明することで、お客様の不安を取り除くことを大切にしておりました。
お花の注文も、実はとてもシンプルなのですよ。
たった3つのステップで、あなたの想いはきっと形になります。

ステップ1:「何のためのお花ですか?」用途を伝える

まず、私たちに教えていただきたいのが「お花の目的」です。
これが、いわば羅針盤の役割を果たしてくれます。

「友人の誕生日祝いなんです」
「結婚記念日で、妻に贈りたくて」
「お世話になった方へのお礼です」
「父の命日なので、お供えのお花を」

このように用途をお伝えいただくだけで、私たちは色合いやふさわしいお花の種類、そして全体の雰囲気まで、ぐっとイメージしやすくなります。

ステップ2:「ご予算は?」正直に、気兼ねなく

次に、どうぞ気兼ねなくご予算をお聞かせください。
これは決して恥ずかしいことではなく、むしろ、あなたの想いを最適な形で表現するための、とても大切な共同作業なのです。
ご予算が分かれば、その範囲内で最も素敵に見えるよう、私たちが腕によりをかけてご提案させていただきます。

参考までに、一般的な価格帯とボリューム感をまとめてみました。

予算ボリューム感の目安よくあるシーン
3,000円台片手で持てる小ぶりなサイズ感。気軽に贈れる一番人気の価格帯です。ちょっとしたお礼、ご友人への誕生日、ご自宅用
5,000円台両手で抱えるくらいのボリューム感。見栄えがして、特別感が伝わります。大切な記念日、お祝い事、お供え
10,000円台かなり豪華で華やかな印象。人生の節目となるような特別な贈り物に。プロポーズ、開店祝い、還暦祝い

ステップ3:「どんな方に?」贈る相手を想う

最後のステップが、一番素敵で、そして一番大切なところかもしれません。
「どんな方へ贈られますか?」ということです。

お花は、言葉の代わりとなって気持ちを届けてくれる存在です。
ですから、贈るお相手のことを少しだけ教えていただけると、私たちはより心のこもった花束をお作りすることができます。

「明るくて、いつも周りを笑わせてくれるような女性です」
「物静かだけれど、とても優しくて芯の強い母なんです」

そんなひと言が、私たちの想像力をかき立て、最高のご提案へと繋がっていくのです。

もっと伝わる、もっと素敵に!イメージを形にする魔法の言葉

基本の3ステップを押さえたら、次はあなたの頭の中にあるぼんやりとしたイメージを、もう少しだけ具体的にしてみましょう。
難しく考える必要はありませんよ。
まるで、洋服を選ぶときのような感覚で、自由な言葉で伝えてみてください。

色で伝える:「あたたかい感じで」「爽やかな色合いで」

一番伝わりやすいのが「色」のイメージです。

  • 暖色系: 赤、オレンジ、黄色など。「明るく元気な感じで」「あたたかい雰囲気で」
  • 寒色系: 青、紫など。「落ち着いた感じで」「上品、シックなイメージで」
  • その他: ピンク系で「かわいらしく」、白とグリーンで「ナチュラルに、爽やかに」

このように色の系統を伝えるだけでも、ぐっとイメージが具体的になります。

雰囲気で伝える:「かわいらしく」「大人っぽく、シックに」

あなたが思い描く雰囲気を、そのまま言葉にしてみてください。

「派手すぎず、でも寂しくならないように」
「ナチュラルで、野原で摘んできたような感じで」
「とにかく豪華に、華やかにお願いします」

こんなふうに、思いつくままの形容詞で大丈夫。
私たちは言葉の断片を拾い集めて、イメージを紡いでいくプロフェッショナルですから。

“究極の呪文”は、相手への想いを語ること

もし、どうしても上手い言葉が見つからなければ、ぜひお相手への想いそのものをお話しください。
これこそが、イメージを伝える最高の魔法の言葉だと、私は思っています。

「いつも元気をもらっている、太陽のような母へ贈りたいんです」
「銀行員時代、厳しくも温かく指導してくださった恩師へ、感謝を込めて」

その言葉に含まれる温度や想いこそが、どんな形容詞よりも雄弁に、作るべき花束の姿を私たちに教えてくれるのです。

スマートフォンも強い味方

もし、インターネットなどで「こんな雰囲気が好きだな」というお花の画像を見つけたら、ぜひそれをお見せください。
百聞は一見に如かず、と言いますからね。
私たちもイメージを共有しやすく、お客様にとっても安心材料になるはずです。

【実践編】会話例で見るシーン別注文シミュレーション

それでは、実際に当店のカウンターでのやり取りを少し覗いてみましょう。
あなたがお客様として、私の前に立っていると想像してみてください。

ケース1:友人への誕生日プレゼント(予算3,500円)

お客様:「こんにちは。友人の誕生日プレゼントで、花束をお願いしたいのですが」
私:「まあ、それは素敵ですね。ご友人はどんな方なのですか?」
お客様:「いつも明るくて元気な子で。黄色とかオレンジが似合うイメージです。予算は3,500円くらいで考えています」
私:「かしこまりました。でしたら、太陽のようなガーベラや、元気が出るオレンジ色のバラを入れて、ビタミンカラーでまとめましょうか。きっとお喜びになりますよ」

ケース2:結婚記念日に妻へ(予算5,000円)

お客様:「結婚記念日で、妻に花束を。予算は5,000円でお願いします」
私:「ご結婚記念日、おめでとうございます。奥様はどんな色や雰囲気がお好きですか?」
お客様:「派手なのはあまり好まないのですが、妻は優しいピンク色が好きでして。上品な感じでお願いできますでしょうか」
私:「承知いたしました。では、大輪のトルコキキョウや、香りの良いピンクのユリを主役に、全体を淡い色合いで上品におまとめしますね。きっと素敵な記念日になりますよ」

ケース3:恩師へのお供え(予算5,000円)

お客様:「お世話になった先生が亡くなったので、お供えのお花を5,000円でお願いできますか」
私:「それは…お悔やみ申し上げます。先生はどのような方がいらっしゃいましたか?」
お客様:「物静かな方でしたが、凛とした雰囲気で。生前、淡い紫色がお好きだと伺いました」
私:「そうですか。でしたら、基本は白で清らかにお作りし、差し色として気品のある紫色のリンドウなどを少しだけお入れしましょう。先生を偲ぶ穏やかなお気持ちが伝わるかと思います」

知っておくと、もっとお花選びが楽しくなる豆知識

最後に、少しだけ知っておくとお花選びがもっと楽しく、そしてスムーズになる豆知識をふたつほど。

「花束」と「アレンジメント」はどう違う?

店頭でよく尋ねられるのが、この違いです。
それぞれの良さを知って、贈る相手や状況に合わせて選んでみてください。

花束(ブーケ)アレンジメント
形状切り花を束ねて、ラッピングしたもの。カゴなどの器に入った吸水スポンジに、花を生けたもの。
良い点・手渡しする際に華やかで、絵になる。
・同じ予算なら、アレンジメントよりボリュームが出やすい。
・花瓶がなくても、そのまま飾れる。
・水やりが簡単で、手間がかからない。
注意点・飾る際に花瓶が必要になる。・花束に比べて、少しコンパクトな仕上がりになることがある。

お相手が花瓶を持っているか分からない場合や、お手間をかけさせたくない場合はアレンジメントが親切かもしれませんね。

最高の選択肢、「おまかせします」という信頼の言葉

色々とご説明してまいりましたが、実は最高の選択肢がもう一つだけあります。
それは、基本の3ステップ(用途・予算・相手の情報)だけを伝えて、あとは「素敵におまかせします」と私たちに委ねていただくことです。

これは、私たち花屋にとって、この上なく嬉しい言葉。
「よし、腕の見せ所だ」と、俄然張り切ってしまいます。
その日市場で一番きれいだったお花や、珍しい季節のお花との思わぬ出会いが生まれることもありますよ。

あなたの想いを、一輪の花にのせて

さて、長々とお話ししてしまいましたね。
最後に、今日お伝えしたかったことをまとめてみましょう。

  • 花屋に入る前の緊張は、みんなが感じること。どうぞご心配なく。
  • 注文はたった3つのステップ「①用途」「②予算」「③贈る相手」を伝えるだけ。
  • イメージは「色」や「雰囲気」で、思いつくままの言葉で大丈夫。
  • 一番の魔法の言葉は、贈る相手への「想い」を語ること
  • 迷ったときは、花屋を信頼して「おまかせ」するのも素敵な選択肢。

花を贈るということは、単に物を渡す行為ではありません。
それは、言葉にならない感謝や、お祝いや、労りの気持ちを、花の持つ生命力に託して届けるということです。

難しく考えすぎず、まずは大切な誰かの顔を思い浮かべて、お店をのぞいてみませんか。
一輪の花を飾るだけで、いつもの部屋が、少しだけ特別な空間に変わるかもしれません。

私たちの「花暮らし」も、いつでもあなたのささやかな一歩を心からお待ちしております。
鎌倉へお越しの際は、ぜひお気軽に、土の香りを嗅ぎに立ち寄ってくださいね。